• 制作は、2012年末の原作権争奪戦からスタートした。
    当時は、原作漫画『予告犯』の単行本全3巻のうち、第2巻が発売されたばかり。その時点で既に、版元の集英社には20社以上のオファーがあったという。そんな中で、原作権を獲得できた理由を、プロデューサー陣は2点あると分析している。
    ひとつは、映画とドラマの双方で、同じクオリティーの作品を同時に展開するという、プロジェクトのスケール感。最初から、映画とドラマでの大胆な企画を打ち出せたことが功を奏した。
    もうひとつは、原作が描いているリアルな社会との接点から逃げないという決意。原作には、実際の事件を彷彿とさせる描写が数多く登場するが、昨今のエンタメ業界では、ともすれば自主規制で、そこを丸く切り抜き、角の立たないものにしてしまう。
    しかし、製作プロデューサー陣は、それこそが作品の肝であり、自分たちはそこにこそ惚れたのだとプレゼン。過激さを求めるだけではなく、作品にとって一番大事なところを極限まで描き切るという姿勢が、争奪戦を勝ち抜けた要因ではないかと分析している。
    こうした経緯の末、2013年5月に集英社から正式に打診を受け、原作権を獲得。その年の11月頃からキャスティングや脚本化を進め、映画版は2014年9月7日にクランクインを迎えた。
  • キャストで映画と連ドラの両方に登場するのは、戸田恵梨香演じる吉野絵里香率いるサイバー犯罪対策課のメンバーだけだが、制作に携わっているスタッフはほぼ同じ。そこには、世に送り出す映像物については、同じ世界観の中で展開する、同じクオリティーの物であることを保証したいというこだわりがある。連ドラは単なるスピンオフではなく、映画と並び立つフラットでイーブンな作品という位置付けなのだ。社会の底辺に落ちた人間が義賊化する映画版と、国家権力の側の人間が、現行のシステムでは実現しえない裁きを下していく連ドラ版。両作品は、そんな対極的な構造で描かれている。そして、対をなすこの作品は、6月6日(土)に映画が公開され、翌6月7日(日)に連ドラが放送される。“予告犯ワールド”は、この連続スタートによって、最大瞬間風速を吹かせることになる。
  • この作品を語る上で絶対に外せないのが、新聞紙をかぶった主人公たちが放つ異様なまでの存在感。そこには、日常生活の中に突如として降臨した、これまでにないダークヒーローのオーラが漂っている。理屈ではないその衝撃的なビジュアルを、ぶれずに打ち出していくことが、制作上での大きなテーマ。
    実際、劇中でもシンブンシ4人が公園の遊具をバックに横一列に並んで予告を語るシーンがあり、そのインパクトは圧巻の一言。そんな衝撃的なビジュアルの一方、物語では、奥田と吉野、2人の合わせ鏡のような人生をリアルに描き出すことに主題を置いている。同じように恵まれない境遇で育ちながらも、どこかでチャンスを得てキャリアにまでなった吉野と、社会復帰不可能な底辺にまで落ちてしまった奥田。どちらに転がっても不思議ではない2人の人生の交錯を描いたことが、この作品の核であり、共感を呼ぶポイントになるだろう。
  • 生粋の職人である中村義洋監督が率いた今回の撮影。
    プロフェッショナル揃いの中村組の中でも、最強のスタッフが集められたといい、監督自身、「自分は判断するだけで、あとは現場のスタッフに委ねていた。いい意味で自分は楽しく遊べた」と語っている。強い信頼関係で結ばれたスタッフの一体感が、作品をさらなる高みに押し上げたことは間違いない。
    セリフひとつ取っても、脚本の段階で十分に練り込まれたものを、役者が体を使って演じた感覚や、現場でしか見えてこない空気感を加味し、撮影中に何度も吟味。一言一句をさらに研ぎ澄ませていったという。他にも、例えば録音部のスタッフは、ネットカフェではどんな音が聞こえてくるのか、実際に2日間泊まり込んで音を収集し、リアルな雑音を劇中で再現したという。緻密に組み立てられたこの映画の世界は、こうした不断の努力とプロフェッショナルな才能によって成り立っている。
  • 今このダークヒーローをやるなら、生田斗真しかいない。
    原作権を獲得する以前から、製作陣はこの意見で一致していたという。
    一番の理由は、奥田=ゲイツとしての存在感。
    劇中で吉野が指摘している通り、奥田には「もっと頑張れば、底辺まで落ちずに済んだのでは」という、“自身の甘さ”がつきまとう。常にその重荷を背負ったキャラクターに説得力を持たせるためには、「ただ単に世をすねて底辺まで行ってしまったのではない」というバックボーンを、直感的に感じさせる役者でなければならなかった。生田には、それを誤解させない、独特のオーラがある。実際、奥田を演じている時の生田は圧巻で、新聞紙をかぶって表情が見えないシーンでさえ、どこか人間味と熱さを感じさせる演技を見せている。 そんな俳優・生田のすごみを如実に感じさせたのが、吉野との追跡劇のシーン。六本木の街並みを300mほど疾走するシーンだが、走り抜ける間に、ここでは視線をこっちに向け、ここでは振り返り…と、演者としてのチェックポイントが、実に15、6箇所もあったという。しかし彼は、1回のリハーサルでそれをすべて頭に入れ、本番は1発OK。完全主義者の中村監督をして、「完璧」と言わしめる生田は、やはりただ者ではない。
  • 吉野絵里香は、ネット上に突如現れた謎の犯罪者を追う最初の目線として、観客が拠り所にする重要な役どころ。
    『SPEC』シリーズで刑事として異才を放った戸田に白羽の矢が立ち、新たな刑事像を作るべく、打合せを重ねた。
    作品唯一の華として、衣裳やヘアスタイルもエレガントさをもたせた。ビジュアルのエレガントさとは一転、奥田との追跡劇ではハードな撮影に体当たりで挑み、泥だらけになるシーンも。
    さらに、ネットカフェ店員・窪田正孝演じる青山の取調べのシーンでは、窪田の迫真の演技に呼応するように、繊細なニュアンスを見事に演じた。
  • シンブンシのキャスティングについては、監督を交えて相談を重ね、4人のバランスを考えながら並行的に固めていったという。4人の芝居のアンサンブルが崩れては、作品自体が失敗しかねないため、最高の役者を引っ張ってくる必要があった。
    そんな中この人でなければ成立しない、鈴木亮平、濱田岳、荒川良々という3人のキャスティングが実現した。実際、生田を含めた4人が居並ぶ姿を見た製作プロデューサー陣は、作品としての成功を確信したという。そして、彼らの芝居のアンサンブルは、本読み(役者自身による台本の読み合わせ)の段階で早くも確立する。通常、映画やドラマの本読みは、会議室などで座ったまま、ないしは棒立ちで行われることが多いが、中村監督は、その状態でやっても意味がないという考え方。今回は、会議室に畳やタンスを持ち込み、産廃処理場のタコ部屋を再現した簡易セットを組んで、最初の本読みが行われた。4人と監督は、そこでキャラクターやセリフの解釈をすり合わせ、わずかな時間で基本的な世界観を作り上げたという。
  • 完璧を求めて作られたこの作品は、隅々のキャスティングにも一切妥協していない。中でもこだわったのが、シンブンシたちの絆の原点となる、ヒョロ役のキャスティング。フィリピンと日本のハーフという設定のため、本当にハーフの人にするのか、エキゾチックな顔立ちの日本人にするのか、現地で生まれたことをふまえてフィリピン人にするのか、様々な可能性を吟味し、数百人もの候補者があげられた。そして、数回に渡る実見オーディションの結果、芸能事務所に所属する直前という、素人同然の新人・福山康平が選ばれた。芝居の経験も皆無だったため、本読み前にワークショップのような形で演技の勉強をさせる必要があったが、福山は周囲の期待に応えてみるみる上達。実際の撮影では、セリフをすべて覚えているのはもちろん、NGを出すこともほとんどなかったという。中村監督も「プロばかりの現場で、最初からここまでできるのはすごい」と太鼓判。シンブンシ4人に犯行を決意させる純粋無垢なキャラクターを魅力的に演じ切り、大役を果たした福山。撮影の合間もキャストやスタッフから可愛がられ、現場を和ませるマスコットのような存在だったそう。彼を見出せたことが、この作品にとって大きかったことは間違いない。
  • 完璧を追求する現場の空気は、セットにも現れている。例えば、奥田たちが犯行に利用していたネットカフェ「ピットボーイ」の店舗。劇中には、厚木店、新宿店、横浜店など、数か所の店舗が出てくるが、ひとつひとつ設計図が描かれ、漫画の並びや受付の位置を変え、セットが組み直された。ロケ地についても、制作部が出し惜しみせずにあらゆる候補地を提案。中村監督がすべて現地に足を運び、納得したものに決めるという作業が行われた。中でも、奥田と吉野のチェイスが展開された渋谷川(東京都渋谷区を流れる2.6kmの二級河川)で撮影ができたことは、作品にとって大きなプラスになった。段差のある水路を隔てて奥田と吉野が語り合うシーンは、2人の間に横たわる見えない障壁を現す重要な場面。そして、彼らの上の雑踏は、2人と社会とのかかわりを象徴的に示している。この場所を見つけ、ロケ地として使えたことが、作品のメッセージをより鮮烈に描き出すことに繋がった。
  • 映画版のクランクアップは、2014年10月29日だった。その日は、健康飲料「レッドクァンタム」の劇中CMの撮影。菜々緒扮するCMモデルが颯爽とポーズを決める、ストーリーとはまったく関係のないシーンである。しかし逆に、2か月間走り続けたスタッフにとって“キャンペーンガールの降臨”は、ちょっとしたご褒美になったようで、お祭りのようなにぎやかさの中で撮影は終了。その勢いのまま、29日=肉(にく)の日というモジりで、慰労のバーベキュー大会が行われたそう。ちなみに、生田のオールアップはそれより前、シンブンシの足跡を追う吉野の前に、奥田の幻影が現れるシーン。劇中では、橋の上で振り返ると、通り過ぎた若者の顔が奥田に変わっているというシーンだけが残っているが、実はIT会社やハローワークでも奥田の幻影が現れており、生田はその撮影にも参加していた。その撮影でオールアップを迎えた生田は、感慨深い表情で目を潤ませながらあいさつし、スタッフに感謝の言葉を伝えた。